The Stone Roses: 20th Anniversary

The Stone Roses Album

ザ・ストーン・ローゼズのファースト・アルバム“The Stone Roses”が発表されて今年で20年が経つ。これを記念して、同アルバムの新装盤がリリースされた。このアルバムはこれまでも何度かリイシューされてきたが、今回はイアン・ブラウンとプロデューサーのジョン・レッキーが直々にリマスタリング作業にあたっており、20周年の名にふさわしい決定版と言えるだろう。

新しいサウンドは全体的にボトムが強化された印象。レニとマニという強力なリズム隊を擁するバンドだっただけに、この方向性は正しい。音像をクリアにしすぎず、あくまで本来の雰囲気を損なわないよう配慮している点も評価したい。

またアルバム本編がリマスタリングされるとともに、アルバム未収録のシングル曲や初出のデモ音源などもあわせてリリースされる。しかしながら商品のエディションが複数あり、どのエディションにどのマテリアルが収録されているのかなどが少々わかりづらい。そこで本稿ではこれらのエディション、およびそこに収められたマテリアルについて検証してみたい。

エディションの比較

まず8月にリリースされた輸入盤が3エディション。さらに日本ではそれらのどれとも違う独自編集の2エディションがリリースされており、以下の計5つのエディションが存在する。

Collector’s Edition
いわゆる全部入りエディション。LPサイズの大型ボックスは90年代初頭のボックスセット・ブームを思い起こさせる。5,000セットのみの限定品。今回リリースされるすべての音源のみならず、タイトルどおりまさにコレクター向けの「おまけ」をふんだんに盛り込んでる。後述する音源や映像以外の主なコンテンツは以下のとおり。
  • 金箔・エンボス加工、シリアル・ナンバー入りのボックス
  • 180グラムの重量盤ヴァイナル3枚(音源としてはすべてほかのエディションでも聴けるものだが、“The Extras”のヴァイナルはこれでしか手に入らない)
  • 48ページのブックレット
  • 6枚のシングルのアートワーク
Legacy Edition
2 CD + DVDの計3枚組。スリップケース入りのブック型パッケージ。日本盤も『レガシー・エディション』のタイトルだが収録内容は異なるので注意。
Special Edition
オリジナル・アルバムのみの、いわゆる通常盤。ただ、ほかのエディションのアルバム本編とは違い、このエディションのみボーナス・トラック‘Fools Gold [Full Length]’を追加収録した全12曲構成。
レガシー・エディション〈リミテッド〉
日本盤の2エディションはともに『レガシー・エディション』のタイトルだが、こちらは〈リミテッド〉と銘打たれた限定盤で、CD 3枚組。「三方背スリーブケース仕様」「オリジナル・アルバム紙ジャケット復刻」などの惹句があるが、はっきり言って出来はかなりしょぼく、ただの紙製パッケージの域を出るものではない。しかしそこはどうでもよくて、重要なのは内容が上記の輸入盤3エディションのどれとも違う日本独自編集である点。今回リリースされる音源のほぼすべてを網羅している。
レガシー・エディション
日本における通常仕様盤で、CD 2枚組。〈リミテッド〉同様に日本独自編集で、同エディションから“The Lost Demos”をオミットした構成。

各エディションに収められたマテリアルをまとめると以下のとおり。

Collector’s Edition Legacy Edition Special Edition レガシー・エディション〈リミテッド〉 レガシー・エディション
The Stone Roses
The Extras
The Lost Demos
DVD
Lemon USB

マテリアルの詳細

ではディスクごとに各マテリアルを検証していこう。なお、筆者は『レガシー・エディション〈リミテッド〉』しか入手していないため、そこに含まれないDVDやUSBについての情報はウェブで収集したものであることをお断りしておく。

The Stone Roses

デジタル・リマスターされたアルバムの本編。今までこのアルバムには収録曲の違ういくつかのヴァージョンが存在するが、ここではUKオリジナル・リリースに準じている(“Special Edition”のみボーナス・トラックとして‘Fools Gold’を収録)。

  1. I Wanna Be Adored
  2. She Bangs the Drums
  3. Waterfall
  4. Don’t Stop
  5. Bye Bye Badman
  6. Elizabeth My Dear
  7. (Song for My) Sugar Spun Sister
  8. Made of Stone
  9. Shoot You Down
  10. This Is the One
  11. I Am the Resurrection

The Extras

シングルのみに収録された曲をデジタル・リマスターを施して収めたディスク。彼らの場合、‘Fools Gold’、‘What the World Is Waiting For’、そして‘One Love’などの重要な曲がアルバム未収録であることや、シングルB面にも聴き逃せない佳曲が多いことから、これらをコンパイルするのみならず、きっちりリマスターしたことの意義は大きい。

  1. Elephant Stone [12″ Version]
  2. Full Fathom Five
  3. The Hardest Thing
  4. Going Down
  5. Guernica
  6. Mersey Paradise
  7. Standing Here
  8. Simone
  9. Fools Gold [Full Length]
  10. What the World Is Waiting For
  11. One Love [Full Length]
  12. Something’s Burning [Full Length]
  13. Where Angels Play

7″と12″など複数のヴァージョンが存在する曲の場合、すべてフル・レングスの12″ヴァージョンを採用(ヴァージョン違いについての詳細は後述)。‘Full Fathom Five’は“Elephnt Stone”の12″ヴァイナルに収録されていたヴァージョンで、今回が初めてのCD化。なお以下の楽曲は今回のリマスターにあたってわずかに手が加えられている。

Standing Here
イントロのギターの最初の部分がほんの一瞬だけ拡張された。
Where Angels Play
イントロにハイハットのカウントが追加された。蛇足としか思えない、意図不明の改変。

The Lost Demos

デモ音源集。売りである未発表曲‘Pearl Bastard’は、悪い曲ではないが、かなり地味。‘Going Down’路線というか、ゆったりしたテンポでいかにもシングルB面的な雰囲気。ほかの曲も、完成版とアレンジが大幅に異なるなどといったことはなく、いまいち聴きどころにとぼしい。つまりアルバムのレコーディングに入る時点で楽曲やアレンジがかなり練られていたということになるわけだが。

  1. I Wanna Be Adored
  2. She Bangs the Drums
  3. Waterfall
  4. Bye Bye Badman
  5. (Song for My) Sugar Spun Sister
  6. Shoot You Down
  7. This Is the One
  8. I Am the Resurrection
  9. Elephant Stone
  10. Going Down
  11. Mersey Paradise
  12. Where Angels Play
  13. Something’s Burning
  14. One Love
  15. Pearl Bastard

DVD

1989年のBlackpoolにおけるギグと、6本のプロモ・ヴィデオを収録。内容は『ザ・ストーン・ローゼズDVD』のディスク1と同様と思われる。

Lemon USB

“Collecor’s Edition”にのみ付属の、レモン型USBメモリ。今回リリースされた全音源とプロモ・ヴィデオ6本に加え、ここでしか手に入らない以下のマテリアルを収録。

  • 未発表の「逆回転」トラック5曲
  • ‘Fools Gold’レコーディング時に撮影されたホーム・ヴィデオ映像
  • ケータイ着信音
  • デスクトップ壁紙
  • 48ページのデジタル・ブックレット

上記のうち、「逆回転」は英国のiTunes Storeで販売されているシングル5種に分散されて収録のものと同一と思われる。

また「ホーム・ヴィデオ」は以下で観られるものと同一とのこと。

どのエディションを買うべきか?

結論から言うと、日本盤『レガシー・エディション』の通常盤(CD 2枚組)をすすめる。

『レガシー・エディション〈リミテッド〉』は、“The Lost Demos”を含む点と紙ジャケである点がアドヴァンテージだが、デモ音源は地味、紙ジャケは出来がしょぼいことから、あまりおすすめはできない。最大のポイントは未発表曲の‘Pearl Bastard’を含む点なので、この曲が欲しいかどうかが決め手になるだろう。

今回リリースされるすべてのマテリアルを手に入れようとするなら“Collecor’s Edition”一択になってしまうが、同エディションでしか聴けない音源は、「楽曲」とは呼び難い5曲の「逆回転」トラックのみ。あとは「モノ」としての価値に重きを置くかどうかだろう。

アルバム本編にデモ音源とDVDを加えた輸入盤の“Legcy Edition”はもっとも中途半端な内容と言わざるを得ない。デモ音源の出来は前述のとおり、映像もほかのソースから入手可能であることから却下。

シンプルにアルバムのみの“Special Edition”という手もあるが、‘Elephant Stone’、‘What the World Is Waiting For’、‘One Love’などの代表曲が聴けないのはありえないのでやはり却下。

というわけで、日本盤『レガシー・エディション』の通常盤こそもっとも賢い選択と断言する。この日本独自仕様を採用したSony Music Japanの英断はおおいに評価されていい。また、もし「音源」をひととおり揃えたいなら『レガシー・エディション〈リミテッド〉』、余程の思い入れと予算と収納スペースがあるならば記念品として“Collecor’s Edition”、といったところだろう。

オルタネイト・ヴァージョン

このほか、今回リリースされたどのエディションにも収録されていないヴァージョンもいくつかあるので整理してみる。以下に挙げたほかにもリミクスなど別ヴァージョンが数多く存在するが、バンドがSilvertone Recordsを離れた1991年春以降にリリースされたもののほとんどは、メンバーが関与していないものと見なし、一部の例外を除いてここでは取り上げない。

Elephant Stone [7″ Version]
今回“The Extra”に収録されている同曲は12″ヴァージョン。この7″ヴァージョンはイントロがドラム・ソロではなく歪んだギターのフレーズから始まるなど、全体的にリズム・トラックより上モノを前面にフィーチャーしたギター・バンドっぽい出来。“The Complete Stone Roses”のほか、かつてアルバムの米国盤や再発盤にも収録されていたので入手は容易。
Full Fathom Five
前述のとおり、この曲はCDと12″ヴァイナルでヴァージョンが異なる。CDヴァージョンは現在“The Complete Stone Roses”に収録。
She Bangs the Drums [Single Version]
アルバムからのシングル・カット。イントロのハイハットがカットされているほか、とくにコーラスでのバッキング・ヴォーカルやギターのミックスがアルバム・ヴァージョンと異なる。かつては日本独自企画盤『ホワット・ザ・ワールド・イズ・ウェイティング・フォー』にも収録されていたが、現在は“The Complete Stone Roses”で入手可能。
Fools Gold [7″ Version]
シングル“Fools Gold/What the Worid Is Waiting For”に収録の、イントロとアウトロをエディットした短縮版。“The Complete Stone Roses”と、今回の20th Anniversaryに合わせてリリースされたシングルCD“Fools Gold”で聴くことができる。
One Love [7″ Version]
同曲の英国盤7″ヴァイナルと、日本および米国盤シングルCDに収録された短縮版。現在は“The Complete Stone Roses”と“The Very Best of The Stone Roses”で入手可能。
Something’s Burning [7″ Version]
“One Love”の7″ヴァイナルに収録の短縮版。CDでは“The Complete Stone Roses”にのみ収録。
Sally Cinnamon [Live at the Hacienda]
シングル“I Wanna Be Adored”に収録のライヴ・ヴァージョン。バンドがすでにレーベルを移籍している1991年9月のリリースであるため、おそらく本作を世に出すことについてメンバーは関与していなかったと思われる。今回の20周年盤をはじめどのコンピレーションにも収録されておらず、シングルCDか12″ヴァイナルでしか聴くことができない。

このとおり、今回の 20 周年リリースで手に入らない音源のほとんどは“The Complete Stone Roses”で聴くことができるが、唯一の例外が‘Sally Cinnamon’のライヴ・ヴァージョン。しかし困ったことに、このヴァージョンの内容がじつに素晴らしいのだ。

最初のヴァースはジョン・スクワイアのギターとマニのベースを中心に王道ギター・バンド然とした展開を見せるものの、イアン・ブラウンの神懸かり的にド下手なヴォーカルによってすべてがバラバラと崩れ落ちそうになる。しかしなんとか最初のコーラスにたどり着いたあと、怒濤の如くセカンド・ヴァースに突入してからは、レニのカミナリのようなドラムがすべてを支配するバンドの必勝パターン。ヴォーカルは曲が進むにつれ調子を取り戻すどころかもはや修復不可能な域に達するが、しかし音程がはずれればはずれるほど歓喜の涙があふれそうになるというこのマジック!

……という、「これを聴いて何も感じない人とは友達になれません」クラスのものなので、なんとか探して聴いてみてください。