読まれるために

リチャード・ラター『ウェブタイポグラフィ』

ウェブタイポグラフィ――美しく効果的でレスポンシブな欧文タイポグラフィの設計』という本の監訳を担当しました。書店の店頭ではAmazon.co.jpなどオンライン書店ではに発売される予定です。

原書である『Web Typography』はにKickstarterでのクラウドファンディングを経て出版されました。僕も出資者のひとりとして本書を手にしたわけですが、当時も今も、ウェブタイポグラフィをこれだけのヴォリュームで網羅的に解説した本はまだないのではないでしょうか。

本書のテーマはタイポグラフィによって読み手の体験をより良いものにすることです。そのメッセージは何度も明快に繰り返されます。正直に言って多少まわりくどいところもある本ですが、それはすぐれたタイポグラフィを実現するために避けて通れない、複雑に絡み合う様々な事柄に真正面から取り組んだ結果であると思います。ですから、すぐに使えるテクニック集のようなものをお探しの方には、残念ながら本書は期待に沿うものではないかもしれません。しかしタイポグラフィの基本をじっくりと学んでみたいという方には、長く役に立つガイドブックとしておすすめできる本です。


本書は3つの章から構成されています。

1章「読まれるための組版」では「行」を中心に組版を解説しています。まず行の組版からはじめるというのは、何よりも読み手の体験を重視するという本書らしい構成と言えます。相対的なサイズ体系をもとに、文字サイズ、行長、行間、行揃えについて検討します。ジャスティフィケーションとハイフネーションの解説にもかなりの紙幅を割いていて、本格的な欧文組版のガイドラインとしても実用に耐える内容です。

2章「タイポグラフィのディテール」では、スペースやアクセント記号、約物、合字、スモールキャップなど、まさに細かなディテールについて学びます。和文の中で欧文を扱うときの参考にもなるでしょう。また文字サイズのスケールについても実践的な考察がなされていますが、これは日本語の文献ではこれまであまりなかったものではないでしょうか。そして段落や引用、リスト、テーブルなど、ウェブページの本文を構成する主要な要素のデザイン手法のほか、バーティカルリズムやグリッド、マルチカラムなど、レイアウトに関しても触れています。もちろんこれらはすべてレスポンシブデザインを前提にしています。

3章「フォントの選択と使用」では、書体の歴史や活字のディテールを学びながら、本文や見出しなどそれぞれに適切なフォントを選ぶための考え方を紹介しています。様々な角度から書体を解剖した、デザイナーにインスピレーションを与えてくれる内容です。加えて、アンチエイリアスなど画面でのレンダリングの仕組みや、ウェブフォントなどについての解説も充実していて、あくまで現在のウェブタイポグラフィでの実践を重視しています。

また原書にはないページとして、和文組版についてごく簡単に解説したコラムと、索引を新たに収録しています(原書は索引がなくて読むのに苦労したんです)。


本書の巻末には欧文の参考文献リストがありますが、ここに日本語版を作るにあたって参考にした日本語の文献を挙げておきます。本書でタイポグラフィに興味を持った方の読書ガイドになれば幸いです。

監訳という仕事は今回がはじめてでした。実際に取りかかってみると思っていたよりはるかに大変で、引き受けたことを何度か後悔しましたが、なんとか完成してほっとしています。

なかなか良い本が出来たと思います。ぜひ手にとってみてください。