即物的

デザインについて書かれたものを読んでいると、たまに「即物的」という言葉に出くわすことがあります。たとえばヨゼフ・ミューラー゠ブロックマンの『グリッドシステム』(古賀稔章訳、ボーンデジタル、2019年)にも、こんなふうに何度か出てきます。

これはデザイナーという職業に対する信念の表明なのである。つまり、デザイナーの仕事は、数学的思考に基づいて明白でわかりやすく、即物的かつ機能的でなければならず、また、美的な質を備えていなければならない、という信念である。

僕は以前、この即物的という言葉をネガティヴな意味で捉えていました。深い考えのない短絡的な行動や、精神的な充足よりも物質的な豊かさを重んじる態度といった、あまり感心しないあり方を指すものだと。「即」の字が即席や即効といった言葉を連想させ、そこから手っ取り早い安易な手法のようなイメージにつながるのかもしれません。

もちろんそういった悪い意味で用いられることもありますが、しかし辞書を引いてみると必ずしもそういう言葉ではありません。即物的とは文字どおり「物に即して」、つまり観念的・抽象的・主観的にではなく、客観的に実際の事物を見ることをいいます。ですからデザインにおける即物的な態度とは、対象となる素材や媒体をあるがままにとらえるということであって、それはデザイナーとしてじつにまっとうな姿であるわけです。

僕が即物的という言葉をネガティヴな意味にしか捉えられていなかった背後には、具体的なものごとよりも抽象的な概念の方がより価値が高い、という思い込みがあるように思います。そしてそういう思い込みは僕だけのものではなくわりと一般的なもので、しかもそれがいろんなところに影響を及ぼしている気がします。どこで植えつけられるんでしょうね、こういうの。