先日リリースされた石井ゴシックが良い。このサイトでもさっそく全面的に採用した。とても気に入っている。
石井ゴシックはもともと、写研が1930年代から70年代にかけて開発した、写真植字機用の書体である。90年代頃まで広く使われていたが、デジタル化されなかったために2000年代以降は目にする機会が減っていった。その後2020年代に入り、写研とモリサワ、字游工房の3社によって写研書体をOpenTypeフォントとして改刻するプロジェクトが発足。石井ゴシックは2024年に復活することとなった。
わたしは1970年代生まれなので、まさに写研の書体に触れて育った世代だが、しかしそれらの書体に特別な思い入れがあるわけではない。たとえば石井ゴシックで組まれた80年代の雑誌をいま見ても、そう言われてみれば見覚えがあるような気もする、という程度のものである。当時のわたしは活字や組版といったものにそこまで興味があったわけではないし、書体の違いを気に留めることもなかったはずだ。だから今回の石井ゴシックのリリースをわたしは、懐かしい書体との再会ではなく、ただ新しい書体の登場として受け止めた。そしてじつに魅力的な書体だと感じたのだ。
字面が小ぶりで、軽やかな読みやすさがある。とくに漢字の造形が絶妙。欧文グリフもなかなか可愛い。いわゆるオールドスタイル・ゴシックだが、ことさらにアナログでレトロな雰囲気を強調せず、あくまで現代の書体として使いやすいものが目指されている。これからのスタンダードなゴシック体として、たとえば游ゴシック体やこぶりなゴシックに代わる有力な選択肢になる書体だと思う。
写研書体のOpenType化計画はこれからも続き、最終的に100書体がリリースされる予定だという。個人的には石井丸ゴシックの改刻ファミリー化に期待している。